⑥2/4 海南市、和歌山市
1週間に渡った紀勢旅行も本日が最終日。最終的に和歌山市の中心部まで走り切ってこの自転車旅はひとまず終わりを告げたのだが、途中で通りかかった海南市についての話をしようと思う。
私はスタンプラリーの一環で、海南市の黒江に立ち寄った。ここにある「うるわし館」では、紀州漆器の展示や販売を行っており、資料室もあった為、覗いていくことにした。この施設の名前は漆(うるし)と麗(うるわ)しから取られていると思うのだが、ここに和紙の産業があればネーミング的には更に完璧だなと思いつつ。
そしてそこには全国の伝統工芸品の分布地図も掲示されていたのだが、ここで驚いたのは、青森県には公式に認められている伝統工芸品は津軽塗だけで、伝統工芸品の種類が日本一少ないというのだ。
青森好きとして真っ先に思い付いたねぶた人形は、イギリスの美術館にも展示されるのだからどうなのかと思ったが、伝統工芸品はどうやら日用品の部類に入る必要があるらしい。一方で、毎年の一大行事であるねぶた祭りに使用されるねぶた人形は、重要無形民俗文化財という扱いだそうだ。
毎年、様々な団体や企業によって、坂上田村麻呂の奥州征伐や源義経の渡海伝説などの王道の歴史題材のみならず、白熊やポスト、果ては漫画やアニメキャラクターまで多岐に亘るねぶた人形が作られている。無形文化財の「国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの」の規定により、こうした時代による変遷が受け入れられていくのは面白い。数世紀後には、アニメモチーフだらけになっているかもしれない。
【ロードバイクの漆塗作品。工業製品も伝統工芸の技術でこの通り、風情ある佇まいに。】
その後、付近で昼食をいただくことを考えた私は、近くの飲食店を調べつつ、町中の路地をゆっくり流していた。その風景は、岐阜の高山市街から川の流れを除いた様な、また埼玉の川越に近い様な木造建築が並び立っていた。
そうしている内に見つけた古民家カフェ「黒江ぬりもの館」に入り、私は手作り黒江カレーと、食後暫くしてぜんざいの追加注文をした。名前の通り、一部の食器は黒江塗であり、古風な内装と相まった非常に趣深いものだった。入口すぐの販売スペースでは、黒江塗の食器や箸なども売っているので、カフェで使って気に入ったものを買うことも出来るのは良い商売だなと思った。
しかもこのカフェ、最奥部には明治時代の貴賓室の様な机や椅子が置かれており、二階部分には小さなステージやソファ席まである。時々、小規模なワークショップや音楽ライブの様なイベントが開催されているとのこと。
常連さんも何組か来ており、偶然立ち寄った私とも話が盛り上がり、気づけば2時間以上も滞在していた。交流の多さがゲストハウス的ですねと言ってみたら、近くでゲストハウスを作る話も起こっていたらしい。地元の人が常連になって集まるこのカフェには、ずっと残っていてほしいと願う。
【見事な黒江塗の食器。漬物もどこか上品で、器に写る影も影絵の様に美しい。】
こうして温かい時間を過ごして黒江を後にし、私は最終目的地の和歌山市にたどり着いた。最後の最後、駅前に到着する直前でフロントタイヤに入った亀裂から空気が漏れ出すトラブルがあったが、停止して確認した時点で、タイヤ内に充填していたシーラントが穴を塞いでくれていた。以前にチューブドタイヤでバーストした際、即座にフラットになって操作が利かなくなったことを思い出した。つくづく、タイヤのチューブレス化の選択の正しさと有難さを痛感したのだった。
この一週間、事故に見舞われることなく、紀勢旅行を完遂することが出来たことを何より嬉しく思う。今後も私の旅模様や各地の情報、小ネタをお伝えするので、引き続き見ていただきたいと思う。