静岡県富士宮市といえば、その名前の通り、富士山の麓に所在している市である。そしてそこには富士山本宮浅間大社という、富士山を祀る神社がある。
富士山本宮浅間大社は、全国に約1,300社ある浅間神社の総本社である。
浅間神社とは、富士信仰に基づいて富士山を神格化した浅間大神(浅間神)、または浅間神を記紀神話に現れる木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやひめのみこと)(別称:浅間大神(あさまのおおかみ)
と見てこれを祀る神社である。
富士信仰は山岳信仰の最たるものと思えば、浅間大社
は正に総本山といったところだろう。
また、主要な浅間神社は山中に祀られた山宮と麓の集落に鎮座する里宮が対をなして祀られている。浅間大社について言えば、里宮がこの本宮で、頂上の三宮が奥宮として存在している。
そしてこの本宮には、国指定特別天然記念物の湧玉池がある。この池に溢れる水は富士山の雪解け水が溶岩の間から湧き出たものだ。
境内にはこの水の飲み場があるのだが、夏場もよく冷えたこの水は実に美味しく、平成の名水百選の1つにも数えられている。
私が訪れた夕暮れ時には薄霧が出ており、山のキャンプ場で早朝に目覚め、朝の一杯を飲んでいる様な感覚だった。
そしてこの水は、富士山頂上へと参詣する富士道者が出発前の禊をすることにも使われている。
富士山の雪解け水で身を清めて富士山の頂上を目指すと知り、私は鮭の川上りを連想した。
鮭は産卵の為に命をかけて川を登るが、人は何故に危険を承知で富士山の頂上を目指すのか?
竹取物語ではかぐや姫の不死の薬が富士山頂上で燃やされたという伝説が記されており、富士山の名前の由来はこの不死の薬に由来するという。
作中の帝が不死の薬を日本一高い山で燃やしたのは、この煙を通して、かぐや姫を想う心を月に帰った彼女に届けようとしたからなのかも知れない。
富士道者にも、この物語の帝の心が引き継がれて、山頂から月へと想いを馳せていると思えば、何とも素敵な話だ。
道者の信仰や月への想いが、富士山の頂上から月まで届けば良い。