全国酒蔵巡りの旅 岡山市 宮下酒造

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旅の流れで久々の酒蔵巡りを、今回は道連れの友人二人と楽しめる機会を得た。
今回訪れた酒蔵は、岡山市にある宮下酒造だ。主に地ビールの『独歩』で有名だが、日本酒やウィスキーも造っていることが分かった。

独歩、というと、やはり国木田独歩だろうか。私は彼の小説を読んだことはまだなく、彼は岡山には縁はない人物の様だ。フィクションでは、刃牙シリーズの主要登場人物の愚地独歩がいるが、そちらの方が今は知名度は高いだろう。
それについて酒蔵見学で聞いたところによると、ドイツの機材と大麦で作っていることや、独立独歩という言葉に由来しているとのことだ。
ビールの醸造を始めてからはこれで約30年、サントリーやサッポロビールという先達と同じ様なものにならない様にと、敢えてドイツから高額な機材を導入し、技師を招聘して作り出した”独”自性もまた、日本の多くのビールにはない”独”特な味わいを醸し出しているのだろう、醸造だけに。

予約した酒造見学が始まり、ビール工場とウィスキー工場を案内してもらった。先ずはビール工場に入り、ビール醸造の大まかな流れと、各タンクの用途等、そして使用されている原材料の説明をしてもらった。
先日の先輩との会話で答えられずにいた、黒ビールの黒色は何に起因するものなのかということがそこで明らかになった。
会話の中で、先輩はメイラード反応という、糖分等が加熱によって褐色化する反応を推測し、私はベリー等の材料由来の色ではないかと推測した。結果、黒色は大麦を焙煎したことによる着色であり、珈琲と同じ様なものの様だ。
私は黒ビールから焙煎感を感じ取ることはできなかったので、感覚はまだまだ未熟の様だ。それとも、ホップを加える前段階での煮沸によって焙煎由来の香りが飛んでしまっているのだろうか?私はどちらかというと黒ビールを好むが、香りを楽しむと言うよりは、強めの味を求めて飲んでいる。次回は焙煎の痕跡を探る様に飲んでみよう。

次いで、ウィスキー蒸溜のポットスチル及び、材料の説明を聞いた。蒸溜とは、様々な成分が混ざった液体を熱し、沸点の違いを利用して成分ごとに分離することを意味している。アルコールの沸点が水より低い(約78度)ことを利用して、低温で蒸発させたアルコール分だけを抽出・凝縮することで、ビールなどの「醸造酒」よりもアルコール度数が高いお酒ができるということだ。
そしてそれは同時に、純度の高いアルコールを求めることで、醸造酒の様な原料由来の個性は残り難いということでもある。それは利点でもあり、同時に弱点でもあるだろうが、そこに個性を付与する方法として、一般的に樽詰めによる木の香り付けがある。ミズナラ、栗等の樽等では3年間熟成させて売り出すらしい。この時間に対して、需要の増大が品薄を呼んでいるのだろう。
この問題に対して、短い時間で同等の品質を得られる方法も研究されているのかも知れない。私は全くの門外漢なので飽くまで推測なのだが、木材の種類もしくは温度調整、あるいは細菌の働き辺りが何かを変える様な気がしている。

木による香り付けについては、近年では日本酒蔵でも樽酒として、木の香りを付加した日本酒が出始めている。以前に訪れた兵庫県・灘の菊正宗酒造では、杉の樽酒を販売しており、樽作りのマイスター(職人)も育てていると当時の杜氏の中島氏からお話を伺った。
因みに、これは記事にした時から数年経って2023年に再度訪れた際に伺った、割と最近の話だ。

続いて、同じスチルを使用してジンも造っているとの話があった。ジンと呼ばれる為の条件として、ジュニバーベリーというスパイスが必須だという。
ここではジンを造るのに15種類のスパイスを使用しているとのことだが、通常は5種類くらいらしい。ウィスキー同様、蒸溜することで刺激は強いが癖は薄いジンに対する色の出し方として、やはりスパイスという手段の種類は多い程に可能性が広がるのだろう。
日本におけるクラフトジンに対する機運が高まる昨今においても、宮下酒造のスピリッツは極めて純度が高い様だ。

工場見学が終わり、最後は同敷地内のショップ及び直営レストランの案内をしてもらい、私は従兄弟へのお土産の購入の為にショップを、そしてビール醸造の過程で説明のあった、無濾過生ビールを飲んで楽しんだ。
この無濾過生ビールが直営レストランの目玉と言うべき商品で、濾過と加熱殺菌をしないことによる酵母の活性を残すということが、賞味期限が24時間程度という超短期のデメリットを抱えつつも、その場での提供によってそれを最低限にしつつ、濃厚な酵母の旨味や栄養成分というメリットを最大限に提供してくれるのだ。
スッキリとした味わいを求める場合は加熱・濾過された通常のビールが良いだろうが、この旨味を知らずに市販のビールだけを飲んで満足するのも勿体ないことだと思う。

機械とは違い、人間の感覚は曖昧で、味覚を数値化することはできない。ともすれば感性と言うべきその特性は、比較という相対化の中でこそ有効に表現されるものと思う。
色々な味を知り、あれとこれを比べてこちらがより甘い、よりスッキリしている、という様な表現は、或いは数値化するより分かりやすく人に伝わることもあるだろう。

悠々〇〇では、新たに日本酒関連のWEBサイトを立ち上げようとしている。ハコはでき始めているが中身に手をつけられておらず、見られるものになるまではまだまだ時間のかかりそうではあるが、良かったらこのサイトの立ち上がりを皆様にも見届けてほしいと思う。
↓WebサイトURL

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