
名古屋市北区清水。天ぷらの名店と名高い店で、以前から気になっていたところがあった。それが、今回のタイトルになっている”天ぷら かき揚げ 光村(みつむら)”だ。
1回目は4月1週目に、2回目は4月末と、1ヶ月の間に2回訪れた。長い名古屋生活の中で訪れたのがここまでゆっくりだったにも拘らず、この短期間で2度の訪問の通り、私はこのお店を相当に気に入っている。
1回目は夕方の17時頃に、2回目はお昼時に来たが、運良くあまり並ぶことなく着席することができた。1回目は開店に合わせて入店したが、20分と経たずに全席が埋まり、その後は行列ができていたので、タイミングと運に恵まれた結果だった。
天ぷらと聞くと、日本を代表する料理の一つということで、格式高い感じがするだろう。しかし実際のところ、天ぷらのオリジナルはポルトガルから伝来したという話を、小学校の歴史の授業等で教えられていたことを、皆様は覚えているだろうか。
ポルトガルでは、”Peixinhos da horta”という、モロッコインゲンに衣を付けて揚げた物のことだという。
ポルトガルの人曰く、衣に味がしっかり付いており、また外食では揚げたてを食べるのではなく、作り置きされた物を提供される事が多いとのことだ。
寿司、天ぷら、芸者は外国人の考えるステレオタイプな日本を代表するアイコンだが、天ぷらは舶来起源というのが少し面白くもあり、多くの人にとっては予想外だろう。
日本の得意技は加工貿易だということを、小学生時に教えられていたことを私は思い出した。ビーフシチューを改変して肉じゃがを作った逸話も然りで、日本の創意工夫は時に魔改造に至るが、それもまた面白いところだと思う。
ポルトガルの人がそういった予備知識を備えた上で天ぷらを食べてみたら、どんなことを思うだろうか。自国のものとの違いを感じた上で、好き嫌いだけでなく、新しい刺激を受けることもあるだろう。
オリジナルとの違いを否定するのではなく、新しいものを受け入れると、より多くの物事を楽しめる様になるのではなかろうか。
さて、前置きが長くなってしまったが、そろそろ食レポを書くとしよう、先ずは1回目の話を。
私は天ぷら定食を、友人は穴子天丼を、そしてここの定番と言われるかき揚げ2人分に、季節のおすすめである筍の酢味噌和えを注文した。
先ずは筍の酢味噌和えが提供され、ビールではなく緑茶を飲みながら食べ始めた。
先ずは芯の部分を一口食べてみると、柔らかく、茹でトウモロコシの様な甘さを感じた。二口目に外側を食べてみても、同じく甘く柔らかかった。
私は今まで、これ程に美味な筍を食べたことがなかったが、素材の良さと調理の上手さの両方があったと思われる。
鮮やかな黄色と甘さが素材側の要因だとして、柔らかさと、えぐみの無い食べやすさは調理技術の賜物だろう。
箱根の強羅に住んでいた際、夕方から夜間にかけてよく猪を見かけたが、彼らも筍を食べていた。食べられる前の筍を入手し、料理が得意な同居人が水煮にしてくれたが、それでもここまでのものではなかった。
筍ご飯は光村にはなかったが、きっと本当に美味しい状態で提供できるなら、ご飯と炊き込むよりは水煮が良いという判断なのだろう。

温泉をしっかり楽しんだ後、我々は新宮へと向かった。お互い、大阪と名古屋で行き先は違えど、どちらも新宮に特急が発着する為、ちょうど良い位置だ。
私は金曜日に訪れたが、友人はまだ訪れていなかった熊野本宮速玉大社に来社し、参拝しながら境内を散歩した。この3日間で2度目の参拝で、今回は旅の終わりに無事に戻ってこられたことを感謝し、ついでに露店で黒糖きな粉餅を購入した。
本体を職場でのおやつとした後、残ったきな粉をお湯と牛乳に溶かして飲み、無駄なく使い切った。
最後に、速玉大社の側にある、はやたま欧食堂ポルトにて、友人と昼食を食べた。牡蠣の入ったトマトソースのパスタを注文し、今回の旅で初めて、地域特有ではない食材がメインの料理を食べた。
麺はやや細めで、茹で時間を短くする為か、もしくはソースとの絡ませ易さを狙っているのだろうか。私自身は麺は1.7mm程のやや太めが好きだが、今回のものも、ソースがよく絡んで美味しかった。
程なくして友人と別れ、それぞれの目的地へと向かった。現地集合の時、同じ方向に一緒に行くのも道中の会話や寄り道が楽しいが、お互いの中間地点で集まるのも、それぞれの話を分かち合えるのが面白い。
私は再び、特急南紀に乗って名古屋へと帰った。帰りも相変わらず、良い電車だった。
時々眠りながら、今回の旅は食事に温泉に観光にと、満足感の高い旅だなぁと振り返った。一人でも友人とでも、また行きたいと思う。

“Don’t judge a book by its cover(本を表紙で判断するな).”という英語の言い回しがあるが、天ぷらの場合は寧ろ表紙によって中身が変化したと言うべきか。それを日本語の諺で言えば、「朱に交われば赤くなる」だろう。
しかしながら、天ぷらはただ衣というガワを纏ったことで和食になっているのではなく、海外から伝来した歴史と、そこからの日本への順応によって、出自の違いを乗り越えて和食の代表として挙げられるだけの風格を備えている。
日本政府の統計によると、国内に観光による一時的なものだけでなく、仕事等で長期滞在する外国人も増えてきている。是非とも観光ばかりでなく、文化や慣習等にも理解と敬意を払った上で、馴染んでいってもらいたい。天ぷらの様に。
⋯少し話が脱線してしまったが、技術と歴史のある名店にして、フォーマルからカジュアルまで幅広く門戸を開いているので、是非ともご賞味いただきたい。
私にとって、池下の㐂しやと共に名古屋の飲食店ではトップのお気に入りだ。
*㐂しやについては、下記記事にて書いているので、併せて読んでいただけると嬉しい。
https://yuyumarumaru.com/2022/01/18/074-x/
また、知人からここで修行をした天ぷら職人が、名古屋市の守山区に「よこい」という店を出していると聞いた。近い内にそちらも訪問の上、違いをレビューしよう。
天ぷら かき揚げ 光村
https://tp-mitsumura.com/index.php

 
	 
	



