2017年4月末、私は鳥取県米子市を自転車で出発し、境港を通って島根県松江市を目指していた。私にとって初の山陰地方だったが、米子市出身の友人から話を聞くことがあり、日本海の幸や皆生温泉を楽しみにしていた。
そしてその境港を越えて松江に入ろうというところで、ある有名な橋が中海の上にかかっている。皆さんはその名前をご存知だろうか?名前は知らないものの、写真を見たことがあるかも知れない。
PC(Pre-stressed Concrete)ラーメン構造の橋で日本一の長さ(中央径間250m)を誇る、江島大橋だ。
ラーメン構造とは橋脚と橋桁が一体で力に耐える構造で、例えば大抵のマンションや、国立西洋美術館などがある。アーチ構造が非常に多い橋の中では、珍しい一例だ。
この橋にはベタ踏み坂の異名があり、インターネット検索でよく出てくる島根県側の写真からはまるでジェットコースターの様な凄まじい傾斜がついている様に見える。
私も山陰旅行を計画した時、この橋を越える為に荷物の軽量化や登坂練習をしたし、直前のファミリーマートできちんと補給をした上で臨んだ。
ところがどっこい、いざこの橋を登ろうとした手前で、”自転車は降りて通行して下さい”の表示がされていたのだ!
一体いつから自転車での走行が禁止されたのだろうか、これ程にクライマーの心を躍らせそうな坂もそうそうないだろうと思ったのに。まぁ、私はクライマーではないのだけれど。
兎も角、私は自転車をえっちらおっちらと押しながらこの橋を登った。思ったよりは緩く、数分で中海を見渡せる橋梁部に到着した。
暫く景色を楽しみながらいよいよ松江側の降り坂へ向かっていく。遂にあの有名な急坂を降るのか!どんな急坂なんだろうと期待を込めつつ向かう時の心境は、さながらジェットコースターで最初に落ちる瞬間を目指して登っていく時の様だった。まぁ自転車は乗らずに押しているんだけどな!
そして自転車を押しながら降っていく。写真で見て予想した程の激しい降り坂ではないと思ったものの、松江側からは中学生が坂道ダッシュの練習をしており、確かに良い練習になるなと思った。
看板曰く、境港側の勾配は5.1%、松江側は6.1%なので、普通に自転車で登ることが出来ればそこそこの急坂である。そうなると自転車乗りも集まりそうだが、車道を走れば物流拠点に近い為にトラックが多く危険で、歩道を走れば人にぶつかり易く、中々難しいところだ。
こうしてそこそこ長く急な橋を通り過ぎ、改めて振り返ると確かに見た目は凄い急坂だった。その一方で、過ぎ去ってみると予想より遥かに容易く通過することができたのだ。
人生においても、直面した問題の見た目の激しさに惑わされず、思い切って突っ込んでみれば、意外とすんなり何とかなることも多々あるものだ。
私も今思えば、前職を退職することを考えた時に散々心配していた問題の殆どは、いざ辞めてみたら大した問題はなく、寧ろメリットが多かったことを思い出した。人生は意外とトリックアートに満ちている。