059 関東・関西の対比に見る② だし(出汁)の東西の差異と、人間の感覚の話。

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第二章では、だし(出汁)の東西の差異について話をしたい。

先ずは東西の分かれ目となる大まかな境界線について。
テレビ番組などの調査によると、JR東海道線や東海道新幹線、また、沿線の立ち食いうどんやそば店のだしについては、岐阜県の関ヶ原付近が境界線になっているとのことだ。
関ヶ原で東西の対比構造というのも、何か因縁めいたものを感じて面白い。

そして味を左右する重要なポイントである素材について、関東ではかつお節、関西では昆布が主として使われている。
前者は動物性でイノシン酸の、後者は植物性でグルタミン酸の旨味成分を持っており、一般的に「関東は濃い味、関西は薄味」と言われる要因の大きなものだと言えるだろう。

そして、『関東=かつおだし』『関西=昆布だし』の文化を作った歴史的な背景は、古くは奈良時代から昆布が朝廷の献上品であったことに由来するという。
政治の中心が江戸に移った江戸時代においては、蝦夷地(現在の北海道)から献上されていた昆布は北前船によって大阪・京都へ運ばれた後、諸々の海産物と共に江戸に運ばれていた。
しかし、大阪・京都の時点での消費や、そこから江戸への船足の長さの問題もあってか、昆布だしの文化はあまり普及しなかった様だ。
全国酒蔵巡りの旅②沢の鶴で少し触れたが、当時の菱垣廻船(大型)で約一月、樽廻船(小型)でも早くて一週間程だというので、乾燥した昆布といえども当時の環境では保存が難しかったのかも知れない。

ちなみに、両者を合わせだしにすると相乗効果でこれまた美味しいのだが、かつおと昆布のそれぞれの特徴に重きを置こうとすると、どこか物足りなく感じることもあるのが難しいところだと私は思っている。
カレーと豚カツの両方が好きでも、それらを合わせたカツカレーが好きとは限らない様に、足し算・掛け算で単純化できないのも料理の面白さの一つだろう。

AIやロボットによる自動化が持て囃され、盛り上がっている昨今こそ、こういう人間の微妙な感覚を大事にする職人芸にも価値を見出し、重宝される時代であってほしいと私は願って止まない。
どれだけテクノロジーが進歩しても、人間は感覚を頼りに生きる動物の一種であり、AIやロボットではない。

ドイツの哲学者のフリードリヒ・ニーチェによる下記の有名な言葉がある。
「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。」
テクノロジーを駆使しつつも、それに頼り過ぎない生物としての生き方を私は貫いていきたい。
そう、「悠々と、自由に」。

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