大抵の人は、地元にお気に入りの飲食店を持っていると思う。
私もお気に入りには何度も来店し、特定のお気に入りを楽しむことと、全メニュー制覇、そして店員との会話などを楽しんでいる。
一方で、遠方の旅先に複数回訪問することは、多くの人にとっては珍しいことだろう。そうなると、旅先で良い店を見つけても、再来店する可能性は必ずしも高くはないだろう。
しかし、その中でもこのグルメレポートシリーズで私が取り上げる店は全て、複数回来店したいと思う程に私の評価が高いものだ。
今回は、徳島県鳴門市にあり、JF北灘さかな市に併設されている「北灘漁協直送 とれたて食堂」を訪れた際の話をしよう。
このお店は2015年末に私が訪れた時は、「漁協食堂うずしお」という名前だったのだが、2021年3月に訪れた時には、同じ場所にありながら、店名が上記のものに変わっていた。
以前に注文した海鮮丼メニューはこの時はなく、少し寂しさを感じた。丼の上で海老が生きて動いていたのが印象的で、もう一度食べたいと思っていた。
踊り食いは初めてだったので、少し戸惑いながらも、舌の上での動きまでも確かめていた。
彼(彼女)が消えていく意識の最後に何を思ったのかは私には分からないが、頭と尻尾を含む全てを噛み砕き、飲み込んだ。
まるのままの食材を食べる時は、その魂の様なものまで自分のものに出来ることはないだろうかと思うことがある。その実感は未だ持てないものの、強く意識をすることで、食材となった生物の分まで強く生きようという気になってくる。
食事に喜びを感じられる人間に自殺者が少ないことにも、そういう要因があるのかも知れない。
他の生命への感謝が、自分の生命を救うことにもなるとは、面白い因果応報の形だ。
そして店名が変わった後に来た際は、件の海鮮丼はメニューになく、かわって日替わり定食を注文した。アジをフライと南蛮漬けで、ご飯と味噌汁の王道の定食だ。その日も走り続けて疲れていたのもあり、アジフライだけでなく、南蛮漬けの酸味と柔らかさが選択の決め手だった。
カリッと揚がったアジフライの食感や熱さと、柔らかい南蛮漬けの組み合わせで、ご飯を2倍楽しめた。ここで元気をみなぎらせ、その後私は遂に淡路島への初上陸を果たしたのだ。
食事は栄養を摂る為だけでなく、家族や親しい友人との交流の様な文化的な側面もある。人間は一人では生きられないからこそ、こうした人と繋がる文化的な行動を大事にしていくべきなのだろう。
このグルメレポートでは料理の味や店の雰囲気を伝えるのは勿論だが、それを通して根底にある食や生きることの喜びも思い出させる様なものになれば、それも重要な意義だと思う。