
父島滞在2日目にして、小笠原最終日の午前は、最後のイベントとしてコーヒー農園の野瀬農園を訪れた。沖縄と同様に、年間を通して温暖な気候の小笠原でも、コーヒーの木が育てられている。
ここで、私達はコーヒーチェリーの摘果から焙煎、そして抽出して飲むところまでの体験をさせてもらった。
摘果に先立って、普段我々が飲んでいるコーヒーを生産する為にどれだけの労力が掛かっているかの説明をしてもらった。
1本のコーヒーの木からは約3kgのコーヒーチェリーが収穫できるが、そこから生豆を取り出すと約500gになり、焙煎すると水分が抜けて約400gとなる。
コーヒー1杯に必要な粉はおよそ10gだが、それを作る為に必要なコーヒー豆はおよそ100gとなる。
コーヒーの摘果が終わった後、時間の都合により、自分達で摘果した豆ではないが、自然乾燥(ナチュラル)のものを煎り上手という焙煎器で焙煎し、ミルで挽いたものをドリップして飲んだ。
この煎り上手というものはサイズも大きくなく、家庭で持つにはちょうど良い。東急ハンズでも販売しているので、手軽に焙煎を始めるのに良いだろう。
似兒草さんのコーヒーを飲む時にも感じるのだが、一定レベル以上のものをドリップで飲むと、カカオに似た香りが鼻腔を満たす感覚を覚える。チョコレート等のカカオ製品と、コーヒーの組み合わせは相性が良く、似兒草さんもショコラテリーヌを提供しており、私はそれを一緒に食べるのが好きなのだ。
こちらのコーヒーはジャワ種というもので、明治時輸入されて以来、野瀬家が歴々と継承してきたものだということだ。
かつての地震による地滑りで一万本近くが失われたというが、それもあって、コーヒーを増やしてほしいという園主の願いから、摘み取ったコーヒーチェリーは持ち帰ることができた。
コーヒーの木は温暖な場所で育つものなので、この冬を越えたら、先ずは植木鉢での室内からやってみるつもりだ。

コーヒー焙煎体験を終えて、中心地に戻り、ボニーナという店でウミガメの刺身と煮込みを昼食に食べた。
ウミガメを食すのはかつて八丈島に行った時以来で、先日に触った亀の肉もこんな感じなのかと思いながら食べてみた。刺身はやや薄味のマグロの様で、クセはなく食べやすいと思った。友人にも、概ね好評だった。
一方で、煮込みの方は汁に中々の臭いが、内臓に牛のセンマイの様な独特な食感があり、人を選ぶ食べ物だった。私も苦手とは言わないが、毎日食べたいものではないと思い、友人は明らかに苦手といった様子だった。アルコールを楽しみながら、肴として食べるのにはちょうど良さそうだ。

昼食を終えて、周辺を少し散歩している内に、小笠原を去る時間も近付いてきた。島を出る前に、これまで何度も美味しさを噛み締めた母島産トマトを是非とも友人・家族へのお土産にしたいと思い、農産物観光直売所を訪れた。
昨日にもここを訪れて、事前に購入しておこうかと思ったのだが、その前日に母島からの船、ははじま丸が波浪警報の発表によって休便になったことで、物資が入らず、それは叶わなかった。
最終的には、当日の14時にははじま丸が入港したことで、何とか15時のおがさわら丸の出港までに購入することができた。
そして15時になり、船が出港した。ユースホステルの皆様のみならず、島の大半の人々が竹芝行きの船を見送ってくれた。更には陸地に留まらず、各自の船で並走し、最後は海に飛び込んで手を振りながら見送ってくれた人も少なからずいた。中々、身体を張っている。(笑)
かつて訪れた礼文島の桃岩荘ユースホステルも、送迎はかなり気合の入ったものだったが、海に飛び込みはしなかった。夏場とはいえ、最北端の海はやはりまだ冷たかったのだろうか?
竹芝行き便の出港日は、多くの商店やサービス店がその時間に合わせて営業終了するので、それが可能になっているのだろう。
手厚い送別の集まりは、観光を含む内地の資源が、父島にとって如何に大きな産業であるかを感じる一幕であった一方で、航空便を受け入れないことは、父島・母島の受け入れの許容量が一因だとも思えた。
京都を筆頭に、内地ではオーバーツーリズムが問題になっている。弊害だけではなく恩恵もある筈だが、現地では弊害の方を大きく感じる声が多いのは、現場の常と言うべきか。
例えば大型建設で大きな仕事を取れば、組織としては潤う一方で、現場の責任者にしわ寄せが行きがちだ。全体主義的な考えで、総和としては利益があるから良い、だけでは成り立たない問題が生じている。
この数日間は都会から島へ移動し、冬なのに暖かく、普段とは大きく異なった環境での生活を楽しめた。この非日常を楽しむことが、私の日常を含めた人生を豊かにしてくれているのは間違いない。
その上で、非日常に浮かれて現地の人達に嫌な思いをさせない様にしたい。旅が旅客だけでなく、観光地の人達にとっても良いものとして続いていく為に。




